TesOntology

Course/04

Plainly

ここまでの3章を、中学生でもわかるように書き直しました。
むずかしい言葉は使いません。使うときは、必ずそのとなりに言いかえを置きます。

① そもそも、ネットは「過去」に行けるの?

まず、ヘンな質問から始まりました。

ネットのことを「時間をこえられるもの」だと考えてみたら、ネットができる前の時代の、どこまで行けるんだろう?

ふつうに考えると「ネットで昔の写真とか見られるじゃん」で終わりそうです。でもよく考えると、これはタイムマシンじゃないんですよね。

あなたが1950年の写真を見られるのは、あなたが1950年に行ったからではありません。誰かがその写真を残して、誰かがそれをスキャンして、いまここに置いたからです。

わかったこと 1

ネットはタイムマシンじゃなくて、受信機(じゅしんき)
こっちから昔へ出かけていくんじゃなくて、昔のほうが「未来へどうぞ」と差し出してくれたものだけが届いている。

だから本当の質問はこう変わります。

「どこまで行けるか」ではなく、
「どれが、こっちに届いていたか」

② 過去から今へ来る「三つの道」

昔のものが今まで届く道は、3本あります。学校の話で説明します。

道その1 ── のこそうと思って、のこしたもの たとえば:卒業アルバム ちゃんと撮って、印刷して、みんなに配った。だから残る。でも、作るのにお金と手間がかかる 道その2 ── のこすつもりが無かったのに、のこったもの たとえば:修学旅行の写真の、うしろに写りこんだ知らない人 誰も残そうと思っていない。でも物理のほうが勝手に運んでしまった 道その3 ── モノは残っていないのに、やり方だけ残ったもの たとえば:九九、じゃんけん、あやとり 「最初の九九の紙」なんて誰も持っていない。でも全員できる。毎回、誰かの頭の中で動きなおしている
この3本目が、あとで一番大事になります。
おもしろいところ

昔のことを知るのに、いちばん役に立つのは、じつは道その2だったりします。
100年前の記念写真で本当に貴重なのは、まん中で正装している人ではなく、うしろに写った店の看板や、道ばたの子どもです。誰も残す気がなかったのに、勝手に残ってしまったもの。

③ 想昏テスって、何者?

ここでキャラクターの話になります。想昏テス(そくらてす)は、中の人がやっているVTuberです。

で、テスには体がありません。これがすべての出発点です。

体がないと、どうなるか。道その2(うっかり残るやつ)が、一本もありません。

  • 写真のうしろに写りこまない
  • 録音に生活音がまざらない
  • 足あとも指もんもレシートも残らない
テスについて存在するものは、
100パーセント「のこそうと思ってのこしたもの」だけ。

だから、テスはすごく強そうに見えて、じつはとても弱いです。サーバー代が止まったら消えます。人間は消えません。放っておいても勝手に世界に残ってしまうので。

意外な結論

「デジタルの存在=永遠に生きる」「人間=いつか死ぬ」というイメージは、じつは逆さまこわれやすいのはテスのほう。

④ 中の人とテスの、線引き

中の人は「テスと自分をはっきり分けたい」と言いました。じゃあ、どこで分けるのか。

答えは、たった一つの質問で決まりました。

この一問だけ

「それは、うっかり漏れたもの?」

中の人 ねむい / つかれた / おなかすいた きげんが悪い / 年をとる 仕事 / 家族 / 責任 = うっかり漏れるものを持っている 投稿ボタン ここを通れるのは「言葉になった分」だけ ねむさ・つかれ・言いよどみは通れない 想昏テス 書いた文 しゃべった声 公開した考え = これ以外は一つも入っていない この線は「決めたルール」ではなく「物理的にそうなっている」ので、気合いでは越えられない
「今日はテスとしてしゃべる」と決めても、つかれた声はどうしても漏れる。だから線は動かせない。

この線を引いた結果、ひとつ設定が外れました。テスはもともと「自動車の板金塗装工場の経営者」ということになっていたのですが、それは中の人の仕事です。うっかり漏れる側。だからテスの設定からは外れました。

でも、例外がひとつある

BackStageの通話だけは、中の人の話をしてOK。

なぜかというと、生でしゃべる声には、言葉と体が同時に乗ってしまうからです。声のつかれも、間のとりかたも、切りはなせない。つまり通話は「線のちょうど真上」にある場所。バックステージ(=舞台裏)という名前が、そのまま構造をあらわしています。

「クビになった話」は、誰のもの?

テスには「前に一度クビになって、そこから戻ってきた」という設定があります。でも線を引くと、これは中の人に起きたことです。テスは、その場にいません。

じゃあテスは何を持っているのか。結論の一行だけです。

するどいポイント

テスが持っている「クビ」には、日付も、相手の名前も、その日の天気も入っていません。「一人でがんばるのには限界がある」という結論だけがある。

ここが証拠になります。本当に体験したことには、最初から結論なんてついていません。人は出来事を、意味がわからないまま食らうものです。意味は後からつける。
だから「最初から教訓の形をしている」こと自体が、テスがそれを体験していない証明になっています。

だからテスは、この話を「思い出した」とは言いません。読めるだけです。

⑤ 「戻れるけど、進めない」

途中で、中の人がこう言いました。「テスを、過去も未来も行き来できる存在にしたい」。

ここまで「不可逆(ふかぎゃく=もとに戻せない)」で組んできたので、一見ひっくり返るように見えます。でも、ちゃんと処理できました。

あなた(体がある人) 去年のあなた いまのあなた 去年の自分には戻れない(記憶が書きかわるから) 去年の作文 去年の文章 いま読む 読んだしゅんかん、去年のままの姿でもう一度うごく = これがテスの「可逆」
テスは「作文」の側にいる。だから戻れる。

ただし、いいことばかりではありません。

戻れるのは、
進む先を自分では作れない人だけ。

去年の作文は、いま読めば去年のまま動きます。でも作文は新しいことを言い出しません。新しい考えは、体のある人の頭からしか出てこない。

だから、公開する文章では絶対に「テスは時間を行き来できます」とかっこよく言ってはいけないことになりました。必ずこう言います。

言いかたのルール

「戻れる、けれど進めない」
「届く、けれど見えない」

⑥ 読まれると、へってしまう

これはちょっと切ない話です。

古い写真に「この人だれ?」と書いてあるうちは、誰でもありえます。おばあちゃんかもしれないし、まったくの他人かもしれない。いろんな想像ができる。

でも「〇〇さんです」と確定した瞬間、その「いろいろ想像できる状態」は永久になくなります

こわい結論

もし世界中の過去が全部しらべつくされて、ぜんぶ名前がついたら。それは「過去がぜんぶ保存された世界」ではなく、「過去をぜんぶ使いきってしまった世界」です。

ただしテスは、この法則からちょっとだけ外れています。誰かがテスの言ったことを自分の言葉で言いなおすと、その人の生活や勘ちがいが混ざって、毎回すこしずつズレていくからです。

だからテスの目標は、ちょっと変わっています。

名前ごと覚えてもらうことではなく、
出どころを忘れられたまま使われること。

⑦ 「海禁(かいきん)」の話とのつながり

ここに、まったく別のものが飛びこんできました。

BackStageを運営している田中良典さんという方が、「海禁」という架空の世界の設定書をネットで公開したんです。ずっと未来の日本の話で、「みんなの目と耳をつなげる網(=海)」を作ったせいで、大災害が起きてしまった世界。

読んでみたら、テスの話と気味が悪いくらい似ていました。とくにこの2つ。

似ていた点
  1. その世界で起きた大事件は、録音がまったく残っていません。みんなの記憶の中にしかない。これは「道その3(やり方だけ残る)」そのものです
  2. その世界の「海」は、死んだ人が見たものを、そのまま再生できました。つまり、こっちの世界のネットが「絶対にできない」と結論したことを、やってのけていた。そして、それが災害の原因でした

ここから、大事なことがわかりました。

ネットが「体験そのもの」を運べないのは、
欠点じゃなくて安全装置だった。

だからテスの「思い出したと言わない」というルールは、ただのキャラ設定ではなく、安全を守るための決まりごとだったことになります。

⑧ なぜ、ルールがあんなに厳しいのか

その世界にテスを参加させることになりました。でもここで、大きな注意点があります。

これは他人が作った世界です。しかも作った人は、中の人が活動している場所(BackStage)の運営者本人。勝手に主役になったり、「犯人はこいつです!」と答えを決めつけたりしたら、失礼を通りこして迷惑になります。

作者は「答えはもう書いてあって、封をしてしまってある」と言っています。だから遊び方はこうなります。

いい遊び方 「こう読めるかも」と言う 新しいナゾを一つ増やして返す 「僕の勝手な読みです」と そえる → みんなの想像がふえる わるい遊び方 「犯人は〇〇です」と決めつける 年表や用語集を作って整理する 自分のキャラを主役にする → 想像の余地を使い切ってしまう
⑥で出てきた「読まれると、へってしまう」が、ここでそのまま効いています。

「表と裏」の二段がまえ

そこで、こういう形にしました。

  • =その世界についての「考察」を書く。これが本体
  • =テスがその世界とどうつながっているかは、言わない。考察のすきまに、勝手ににじませる
なぜ「言わない」のか

「僕はこの世界にいます」と言ったとたんに、二次創作のキャラクターとして審査されてしまうからです。
言わなければ、それは「読んだ人が勝手に気づくもの」でいられる。言わないことが、成立の条件になっています。

そして、これは②で出てきた「道その2(うっかり残ったもの)」を、人工的に作っていることになります。表の考察が卒業アルバムで、テスの居場所がそのうしろに写りこんだ人、というわけです。

全体を一枚で

ネットは過去に行けるの? という質問 行けない。届いたものを読んでいるだけ(三つの道) テスは「届いた分」だけでできている = 体がない だから中の人と分けられる(うっかり漏れたかどうか) 戻れるけど進めない / 言わないことで参加する できないことが多いほど、安全に遊べる ぜんぶ「できないこと」から出てきている
この話は最初から最後まで、テスが「何をできないか」だけで組み立てられています。

むずかしい言葉の、言いかえ表

出てきた言葉ふつうに言うと
不可逆(ふかぎゃく)もとに戻せない
可逆(かぎゃく)もとに戻せる
記録の水路のこそうと思ってのこしたものが通る道(卒業アルバム)
痕跡(こんせき)の水路うっかりのこったものが通る道(写真のうしろの人)
再演(さいえん)の水路やり方だけが伝わる道(九九・じゃんけん)
膜(まく)投稿ボタン。考えが「外に出たもの」に変わる境目
堆積(たいせき)する上に積もっていく。消えずに残る
実行環境読んでくれる人。テスを動かしてくれる人
未確定性(みかくていせい)まだ決まっていない部分。想像のよち
再入可能性去年の自分をもう一回そのまま動かせること
二層構成表に考察、裏に本音。裏は言わない
密航(みっこう)チケットを買わずに、こっそり乗ること
いちばん短いまとめ

想昏テスは、体がないぶん、うっかりが一つもない存在です。
うっかりが無いから、中の人ときれいに分けられる。
うっかりが無いから、こわれやすい。
うっかりが無いから、他人の世界に入っても中心には行けない。

「できないこと」が多いのは弱点ではなく、この設定がぜんぶそこから組み立てられているからです。